「青線」八木澤高明氏
本書に登場するのは、「パンパンの街へと変貌した農村地帯」山形・神町、「戦後の原風景を感じる色街」沖縄・真栄原など30カ所以上。歩き回って跡形を探し、土地の人に声をかけて往時を聞き出している。渡鹿野島など「今なお」の地で自ら客となることもあったが、著者の興味は「時の流れとともにその役割を終えていく姿」にある。「1982年に松山でホステスを殺し、時効の3週間前に福井のおでん屋で逮捕された福田和子っていましたよね。彼女は15年間、売春地を転々として逃亡生活をしたんです。通報したおでん屋の女将だった人が開いていた飲み屋であれこれ聞いた後、店を出ると、年配の女性に呼び止められ『あの子は普通の良い子でしたよ』って。出身の今治でも『あの子は可哀想な子だった』と、母親が売春斡旋業だったと知っていた人が言い、彼女に温かい目を向けた」
売春地には「事の善悪で割り切れない思い」があり、「何人もの“福田和子”がいた」と著者。情感を誘う各地の写真も掲載されている。(スコラマガジン 1800円+税)
▽やぎさわ・たかあき 1972年神奈川県生まれ。写真週刊誌「フライデー」カメラマンを経て、文筆家に。著書に「マオキッズ―毛沢東のこどもたちを巡る旅」(第19回小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞)、「黄金町マリア」など。