「語りだす奈良118の物語」西山厚著
奈良国立博物館の学芸部長として多くの展覧会を企画運営してきた著者によるエッセー集。
東日本大震災の数日後に記した「大地との絆」では、アニメ「風の谷のナウシカ」の主人公の少女と、東大寺の大仏を作った聖武天皇のエピソードを紹介しながら、「世界を救うことができるのは、深く傷つき、深く苦しみ、その真っただ中を歩み続けている人だけだろう」と被災地に思いを馳せる。
また、正倉院の宝物である聖武天皇遺愛の品々をなぜ后の光明皇后は大仏に献納したのか、そして昭和21年に最初で最後の予定で開催された正倉院展が現代まで続いた理由などを明かす「正倉院宝物の力」など。仏教研究に裏打ちされた豊かな知見からつづられる文章に心洗われる。
(ウェッジ 1500円+税)