「グアンタナモ収容所地獄からの手記」モハメドゥ・ウルド・スラヒ著、ラリー・シームズ編、中島由華訳
米国は、9・11の後、テロとの戦いを名目に、キューバ南東部に位置するグアンタナモ基地内の収容所に、世界各地で捕らえた「テロ容疑者」を集めて尋問を行ってきた。領土外の収容所なら人道的待遇を義務付けた国際条約は適用されないとして、無期限の拘束や残酷な尋問も問題にされないまま放置されているという。本書は、テロへの関与を疑われてグアンタナモ収容所に送られ、何らかの罪状で裁判が行われることもないまま14年間拘束されているひとりの男による手記である。
拘禁中に覚えた英語によって書かれた手書きの手記は、政府の検閲によって不都合な部分は黒塗りにされた上で編者の手に渡っているため、いたるところに黒塗り箇所が出現する。それでも家族にも知らされないまま収容所に送られ、暴力や暴言、睡眠妨害など、不当な目に遭った日常が、抑制のきいた文章から伝わる。「テロ」の言葉ひとつで、人権を簡単に踏みにじることが可能な現状に悪寒を覚える。(河出書房新社 2800円+税)