心揺さぶる評伝特集

公開日: 更新日:

 その後、台湾・台北の伯母一家に預けられた1年の間に亜熱帯の蝶と出合う。

 幼少期から青年期にかけての自然との出合いは、行男の生涯を決定づけるものとなった。

 帰国後は東京で師範学校の博物科に入学し、教師の道に進んだ。しかし運命は、このまま教育熱心で山好きな教師として生涯を送る道を彼に許さなかった。博物通論の学生に課した産児制限を論じさせる試験内容が問題となったことや、八ケ岳で遭難未遂事件を起こしたことを契機に、校長から免職の辞令を受けてしまったからだ。

 父母の死、度重なる転居、失職、戦争による建物疎開と、行男の生涯には常に予期せぬ困難がつきまとう。

 しかし、どこに行っても彼は自然を慈しむ視線は失わなかった。安曇野への疎開を契機に、行男は蝶の細密画を精力的に描き、一人で山歩きをするなかでナチュラリストとしての道を本格的に歩み始める。

 なかでも高山蝶については「水陸の分布の変動により退路を断たれて故里にも帰れず、さりとて温暖にも馴致できず、やむなく高地へ閉じ込められた蝶」と表現し、安曇野に流れ着いた自身を自己投影していたようにも見える。だからこそ、経済を優先するあまり山が観光地化され蝶や虫たちの生息地が年々減っていくこと、農薬散布による環境破壊などに対する憂いも深かった。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ吉井監督が佐々木朗希、ローテ再編構想を語る「今となっては彼に思うところはないけども…」

  2. 2

    20代女子の「ホテル暮らし」1年間の支出報告…賃貸の家賃と比較してどうなった?

  3. 3

    【独自】フジテレビ“セクハラ横行”のヤバイ実態が社内調査で判明…「性的関係迫る」16%

  4. 4

    「フジ日枝案件」と物議、小池都知事肝いりの巨大噴水が“汚水”散布危機…大腸菌数が基準の最大27倍!

  5. 5

    “ホテル暮らし歴半年”20代女子はどう断捨離した? 家財道具はスーツケース2個分

  1. 6

    「ホテルで1人暮らし」意外なルールとトラブル 部屋に彼氏が遊びに来てもOKなの?

  2. 7

    TKO木下隆行が性加害を正式謝罪も…“ペットボトルキャラで復活”を後押ししてきたテレビ局の異常

  3. 8

    「高額療養費」負担引き上げ、患者の“治療諦め”で医療費2270億円削減…厚労省のトンデモ試算にSNS大炎上

  4. 9

    フジテレビに「女優を預けられない」大手プロが出演拒否…中居正広の女性トラブルで“蜜月関係”終わりの動き

  5. 10

    松たか子と"18歳差共演"SixTONES松村北斗の評価爆騰がり 映画『ファーストキス 1ST KISS』興収14億円予想のヒット