心揺さぶる評伝特集
「小児科医 ドクター・ストウ伝」長澤克治著
福島出身の両親のもとに生まれ、両親の渡米によって日系2世として育ち小児科医となったドクター・ストウの生涯は、際立って数奇なものだった。
太平洋戦争時代、米国への忠誠を求められたストウは、銃を手にするのではなく強制移住先のユタ州で医学教育を全うする道を選択する。そして戦後、放射線が人体に与える長期的な影響を調査する原爆傷害調査委員会(ABCC)の現地要員として、彼は広島に降り立った。1958年から72年には、マーシャル諸島の水爆実験の影響を調べるため毎年ロンゲラップ島で子どもたちを診察し、放射線が与える甲状腺の深刻な障害を見いだしている。その後、米国に戻ると小児がんの治療に邁進し、複数の抗がん剤を組み合わせた化学療法の分野に貢献した。胸のうちを語ることなくこの世を去ったストウの生涯が、さまざまな資料と証言から浮かび上がってくる。(平凡社 2000円+税)