中国の牛肉ブームの影響で日本の牛丼は贅沢品に
“安い・早い・うまい”と三拍子そろった牛丼。しかし、そう遠くない未来に、牛丼が高根の花的贅沢品になってしまう日がやってくる可能性がある。
井上恭介著「牛肉資本主義」(プレジデント社 1500円+税)は、中国の“爆食”をはじめ、経済のグローバル化が食のグローバル化を加速させることにより激化している、牛肉の争奪戦についてのルポだ。
大手牛丼チェーンをはじめコンビニなどでも用いられているのが、ショートプレートと呼ばれるアメリカ産のばら肉。安く、味も食感もよい、庶民の味方の牛肉だった。しかし今、ショートプレートは驚愕の値上がりを続け、1キロ当たり760円だった卸値が、わずか半年で1155円に達している。その大きな原因となっているのが、中国による“爆食”だ。
そもそも中国の食文化では、肉といえば豚か鶏。牛は硬くてまずいとされ、その地位は非常に低かった。ところが、食料輸入を推奨する中国政府のかじ取りによって、牛肉の輸入バイヤーを始める商売人が急増。長年日本が買ってきたショートプレートが狙われ、安くてうまい牛肉は中国に空前の“牛肉ブーム”を起こしてしまった。
さらに、近年中国の小学校には給食制度が導入され始め、食材として大量に用いられているのが、ミルクと乳製品、そして牛肉だという。中国でも食の欧米化が進み、幼い頃から牛肉で育った子どもたちが大人になったとき、牛肉の“爆食”は今以上に激しくなるはずだ。
日本に牛肉を売ってきた輸出国も、手のひらを返したように中国寄りになっている。ショートプレートひとつとっても、日本向けには余分な脂をそぎ落とし形も整えた高品質なものが求められる。一方、中国のバイヤーは骨も皮もついたまま丸ごと買っていく。当然、中国の方が売りやすいというわけだ。
日本の食卓から牛肉が消える。決してあり得ないことではない。