これは、ストンと腹に落ちる経済政策だ
「分断社会を終わらせる 『だれもが受益者』という財政戦略」井手英策/古市将人/宮﨑雅人著 筑摩書房 2016年1月
21世紀になってから、新自由主義的な弱肉強食の瘴気が日本の社会全体を覆っている。一人一人がアトム(原子)的に分断されてしまい、非正規労働者は使い捨てにされる。正社員でもいつまで身分が安定しているか、不安だ。貧富の格差は拡大し、子どもの6人に1人が貧困状態にある。日本社会の分断が急速に進行している。
事態をこのまま放置しておくと、社会が分解し、必然的に日本国家も弱くなる。もちろん安倍政権も、このような状況に危機感を強く覚えている。それだから、一億総活躍社会というスローガンを掲げ、社会を強化しようと主観的には頑張っている。
しかし、安倍政権は分断社会の克服を「一君万民」的な復古主義イデオロギーで実現しようとしている。イデオロギーでは社会と国家の統合を強化しようとしているが、経済政策は新自由主義なので、これではどんなに政府が頑張っても分断社会は克服されない。
井手氏らは財政学的手法を駆使して、制度設計をきちんと行うことによって分断社会を克服しようとする。
〈受益者の範囲を広げて、社会全体で課題を共有することで対立を解消する「したたかさ」が再分配政策の肝だということである。これこそが日本の政治に欠けていた視点であり、限定性や選別性、自己責任性を重視してきた勤労国家の負の遺産なのである。/(中略)歳をとって所得を失うリスク、失業するリスク、病気になるリスクなどは、個人で完全に対処するのは難しいし、リスクに直面すると、誰しも身動きがとれなくなる。誰にでも訪れうるリスクをメンバー全員で共有できるような再分配、困った時はお互いさまという意味での「共存型の再分配」も、財政の重要な機能であることを確認しておこう。〉