「砂上の法廷」無表情なキアヌには格好の役柄
いきなりで恐縮だが、キアヌ・リーブスを大根役者と思っている人は少なくないだろう。
出演作も「マトリックス」か「スピード」シリーズの印象が強く、要は非現実的なSFか爆走アクション専門。その理由は彼の表情にある。どんな場面でもほとんど表情が変わらず、喜怒哀楽の人間味に乏しい感じがするのだ。ところがその彼が、何と法廷弁護士を演じるという。来週末から公開の「砂上の法廷」である。
実はこの映画、案に相違して(とは失礼だが)ちょっとした見もの。ドラマで見る通りアメリカの弁護士は陪審団を前に身ぶり手ぶりで大演説をぶつのが常。その「心にもない」振る舞いが、無表情なキアヌの芝居にうまく合っているのだ。
同志社大の法科大学院で教壇に立つアメリカ人弁護士、コリン・P・A・ジョーンズ著「手ごわい頭脳」(新潮社 680円+税)によると、アメリカの陪審制度と日本の裁判員制度は別物。アメリカの陪審は明らかに有罪でも無罪評決できる権限を持つ。しかも検察は上訴できないのだ。その根底にはアメリカの司法制度が「政府に対する深い不信を大前提にしている」ことがあるという。
だからこそアメリカの弁護士は自分が信じてなくともクライアントの要求を実現すべく全力を尽くすのである。法廷映画を見る前に読んでおくと役立つ一冊。〈生井英考〉