作家が照らし出す 迷宮入りした凶悪事件の謎
「〈オウム真理教〉を検証する」井上順孝著
迷宮入りした凶悪事件、決着後も割り切れなさを残す怪事件などが日本の病理を照らし出す――。
あの地下鉄サリン事件からもう20年以上。しかし、事件の背景をなす日本社会の心の闇は依然として手つかずだ。化学兵器テロとしての教訓も生かされてない。本書は宗教学者や社会学者を中心にジャーナリストや事件当時はまだ子どもだった世代の大学院生までを含んだ専門論集。
本書が特に想定する読者層は「オウム真理教事件にあまりリアリティーをもてない世代」=若者だという。オウムを異様な事件として葬らず、社会の病理の表れとして教訓を継承する試みというわけだ。
オウムをチベット仏教やニューエイジなどに安易に結びつけると、逆に「ずいぶんと“立派”に見えてしまうという錯覚」が起こるという警告は鋭い。注目すべきは「自分たち以外のソト(の社会)に対する驚くべき差別意識と、それにもとづくすさまじい攻撃性」。悩みを逆転させて生まれた歪んだエリート意識が、他者を容易に軽んじる感覚を生み出すのだ。まさにイジメや排外主義の横行に通じる現代の社会病理。
脱会者の手記から「ウチ」と「ソト」をめぐる狂信のしくみを明らかにし、文化人の中沢新一や宗教学者・山折哲雄らが事件前に麻原彰晃を持ち上げ、事件後にはうやむやに論点をずらしてしまった経緯を検証する章も読みごたえがある。(春秋社 2300円+税)