著者のコラム一覧
佐々涼子ノンフィクションライター

1968年生まれ。早稲田大学法学部卒業。2012年「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」で第10回集英社・開高健ノンフィクション賞を受賞。最新刊「紙つなげ!彼らが本の紙を造っている」でキノベス1位ほか8冠。

パリでナチスに抗した無名の人々の記録

公開日: 更新日:

「パリは燃えているか?」(上・下) ラリー・コリンズ、ドミニク・ラピエール著、志摩隆訳

 第2次世界大戦末期、各地で敗北を重ねていたヒトラーは、パリを占領しているドイツ軍兵士に指令を出す。

「パリを敵の手中に渡してはならぬ。もし、敵の手中に渡すときには、パリは廃虚となっていなければならぬ」

 パリ軍政長官コルティッツ将軍は、パリを己と道連れに破滅させようとするヒトラーに狂気を感じながらも、凱旋門、エッフェル塔、ノートルダム寺院と、いたるところに爆薬を仕掛ける。

 一方、フランスの共産主義勢力は、市民の一斉蜂起を企てていた。もし、これが現実化したら、ドイツ軍との激しい戦いの末、大勢の市民が犠牲となり、世界に誇る美しい街並みは焦土と化すだろう。この緊迫した状況の中、スウェーデン総領事のノルドリンクは、抵抗派の救命に動きだす。

 本書はアメリカ人記者ラリー・コリンズと、フランス人記者のドミニク・ラピエールが3年の歳月をかけて、膨大な資料と聞き取り調査によって書き上げた戦史ドキュメンタリーである。

 記録されなければ歴史に埋もれてしまうだろう無名の人々の姿が印象的だ。例えば収監されていた囚人たちがドイツの収容所に送られていくシーン。生きて帰ることが絶望的な状況の中、ポーランド人歌姫ノラの声がバスの中から誇らしげに聞こえてくる。

「このフランスの国で、私を待っていて。すぐ帰ってくるからね」

 旧式のホッチキス機関銃一丁でドイツ軍に立ち向かい、炸裂弾で頭蓋を砕かれた15歳の装填手ジャノ、戦車を炎上させ、雨あられと降り注ぐ機銃に打たれて路上に倒れた赤いスカートの少女、戦火の中で湧き起こる〈ラ・マルセイエーズ〉。

 一人一人の力は小さくても、無数の人々の運命が縒り合わされ、うねりとなって歴史が生まれてくる。その様に心打たれる。過去に映画化されたこともある本作は、今年、文庫として出版された。読み継がれるべきノンフィクションの傑作だ。(早川書房 各1100円+税)





【連載】ドキドキノンフィクション 365日

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    “3悪人”呼ばわりされた佐々木恭子アナは第三者委調査で名誉回復? フジテレビ「新たな爆弾」とは

  2. 2

    フジテレビ問題でヒアリングを拒否したタレントU氏の行動…局員B氏、中居正広氏と調査報告書に頻出

  3. 3

    菊間千乃氏はフジテレビ会見の翌日、2度も番組欠席のナゼ…第三者委調査でOB・OGアナも窮地

  4. 4

    中居正広氏「性暴力認定」でも擁護するファンの倒錯…「アイドル依存」「推し活」の恐怖

  5. 5

    大河ドラマ「べらぼう」の制作現場に密着したNHK「100カメ」の舞台裏

  1. 6

    フジ調査報告書でカンニング竹山、三浦瑠麗らはメンツ丸潰れ…文春「誤報」キャンペーンに弁明は?

  2. 7

    フジテレビ“元社長候補”B氏が中居正広氏を引退、日枝久氏&港浩一氏を退任に追い込んだ皮肉

  3. 8

    下半身醜聞ラッシュの最中に山下美夢有が「不可解な国内大会欠場」 …周囲ザワつく噂の真偽

  4. 9

    フジテレビ第三者委の調査報告会見で流れガラリ! 中居正広氏は今や「変態でヤバい奴」呼ばわり

  5. 10

    トランプ関税への無策に「本気の姿勢を見せろ!」高市早苗氏が石破政権に“啖呵”を切った裏事情