「純喫茶」姫野カオルコ著
西暦2000年のある金曜日の夜、スターバックスで夕食をとる私の脳裏に、3歳10カ月のときの出来事が鮮明によみがえる。
その夜、父は、突然「特急こだま」の玩具が欲しいと駄々をこねた私を自転車に乗せ、「大阪チェーンストア」に連れていき、店員に無理を言って、閉店後の店内に入れてもらった。私が一人っ子だと知り、そのわがままに納得していた店員たちの表情まで思い出す。そのとき、私は別にこだまが欲しいわけではなかった。私は父が44歳のときの子で、3歳10カ月の私の目にも父と母の結婚は幸せそうには映らなかった。(「特急こだま東海道線を走る」)
息苦しくなるほど鮮明に覚えている幼い日々の記憶を題材にした短編集。(PHP研究所 540円+税)