「世界の巨樹・古木 歴史と伝説」ジュリアン・ハイト著 湯浅浩史監修 大間知知子訳
文字通りそびえたつ樹木界の「レジェンド」たちを紹介する豪華ビジュアルブック。世界各国の高名な100本の巨樹・古木の歴史やその木にまつわる伝説を、過去や現在の図版や写真とともに紹介する。
アメリカの国立公園には、樹高80メートルを超えるジャイアントセコイアが林立するジャイアント・フォレストがある。それぞれに「シャーマン将軍の木」や「大統領の木」などと名付けられた巨木の中には、樹齢3000年を超えるものもある。
しかし、上には上がいる。レバノンのビケイラという高地の小さな村にあるオリーブの木「シスターズ」は、世界最古のオリーブの木と思われ、その樹齢は6000年と考えられているという。なんと、この木はノアの箱舟のノアが漂着したときに見たオリーブそのものだともいわれているそうだ。
メキシコシティーの南東500キロにあるサンタ・マリア・エル・トゥーレの町にある「モンテスマサイプレス」(メキシコヌマスギ)は世界最大の幹回りを誇る。その長さ36メートル(ひだに沿って測ると58メートル)にもなるその外観は、一本の樹木という概念から逸脱して、巨大遺跡か何かを見ているような気分にさせられる。
このトゥーレの木に次いで世界第2の太さを持つ南アフリカの「サンランド・バオバブ」の洞からは、先住民が寝泊まりした痕跡や、1800年代にこの木を宿代わりにしていた旅行者の忘れ物などが見つかっている。さらに驚くべきことに17世紀からこの洞では少なくとも5回も火事があったそうだ。
熱海の来宮神社の御神木である「大楠」や、日本武尊によって植えられたと伝わる山梨県の「神代桜」など、日本の巨樹・古木たちも取り上げられている。
その他、西洋医学の父であるヒポクラテスが植えたというギリシャのコス島の「スズカケノキ」や、森の中で半裸で踊った修道女が罰として姿を変えられたという伝説が残るドイツの「イーフェナックのヨーロッパナラ」、死んだドラゴンの生まれ変わりと言い伝えられ、その樹液は空気に触れると赤くなるというカナリア諸島の「エル・ドラゴ・ミレナリオ(千年の竜血樹)」など、世界39カ国の名木を巡る。
伐採や落雷、火事、自然災害などに耐え、地球と人間の移り変わりを眺めてきた巨樹・古木は、まるで魂が宿っているかのように、見ているだけでその存在感に圧倒される。
著者は、これらの木々を「緑の記念碑」と呼ぶ。パワースポットとして人々を魅了する、これらの木々たちの人知を超えた生命力に呼応し、眺めていると不思議な感銘が湧き上がってくる得難い読書体験となるに違いない。(原書房 6000円+税)