「貧困世代」藤田孝典氏
海外留学したいと真面目に目標を持つ学生ほど、風俗嬢を希望します
「私は大学で教員をやっていますが、ここ数年1限、2限に来られない学生が増えています。理由は生活費を稼ぐために毎日、深夜労働しているからなんですね。奨学金を借りればと思うかもしれませんが、学費は高騰しており、その支払いでキレイに消えてしまいます。さらに親世代の賃金が減っている今は仕送りが期待できず、生活費を自分で稼がざるを得ないのが現状なんです」
本書は、ベストセラーになった「下流老人」の著者が、全国に約3600万人いる“貧困であることを一生涯宿命づけられ、追い詰められている若者”の実態に迫った社会論。
「団塊世代の貧困格差よりも、今の10代~30代の若者の方が悲惨です。目標を持つ学生ほど過酷な労働に追い込まれていて、海外留学したい、資格などをとってスキルアップしたいと真面目に将来を考える女子大生の相当数が風俗店で働いているんです」
無事に卒業できたとしても、奨学金の返済地獄が待ち受ける。社会福祉士でもある著者が代表を務める生活困窮者支援を行うNPO法人ほっとプラスには、「奨学金を返還するのが困難だ」という相談が相次いでいる。奨学金の利用者は大学生の2人に1人。現在の奨学金は、戦後から続いた「給付型」ではなく「貸与型」で、学生の7割以上が有利子で借りている。
卒業と同時に利子を含めた数十年ローンを抱え、新社会人になるのだ。
「非正規雇用社員はもちろん、運よく正社員になれたとしても賞与、福利厚生もないという雇用が増えています。都心なら1人暮らしの生活費だけでも15万~20万円かかり、そこに奨学金の返済という出費が重くのしかかります。若い世代は『草食系』だの、やれ『欲がない』などと言われますが、聞けば彼らは『本当はデートも旅行もしたい。車も買いたい』と言うんです。そんな欲しいものを買うという、大人にとって当たり前のことが、彼らには簡単に手の届かない贅沢になってしまっているのです」
本書には、ケガで働けなくなったため所持金13円で野宿していた21歳の男性や、「早く18歳になりたい。風俗店で働けるから」という工場で働きながら夜間定時制高校に通学する17歳の女子高生など、著者の元に寄せられたリアルな相談実例も紹介されている。
貧困家庭に生まれたことで背負う教育格差、奨学金の重み、雇用環境の劣化――。一過性の困難に直面しているだけでなく、日本社会の仕組みを変えない限り貧困から逃れられない世代であることがよく分かる。
「いまだ『努力論』『自己責任論』がいわれ、若者に対する社会一般的なまなざしが高度成長期のままで、まるで変わっていないと感じます。まずそこから問題提起したいですね」
(講談社 760円+税+税)
▽ふじた・たかのり 1982年、茨城県生まれ。生活困窮者支援を行う「NPOほっとプラス」代表理事。聖学院大学客員准教授。反貧困ネットワーク埼玉代表。