「家飲みを極める」土屋敦氏
家飲みのつまみの定番といえば、枝豆、オニオンスライス、ポテトサラダだが、こうした一見、簡単そうに思えるつまみこそ、手間暇をかけるべきだ、と著者は言う。
「シンプルなつまみこそ奥が深いんです。魚の種類や育て方によっては、刺し身は醤油でなく、塩と薬味だけで味わった方が断然いい。つまみの定番の枝豆も水からゆでるのか、お湯からゆでるべきなのか、塩はどれぐらいの量をどのタイミングで入れるべきなのか、いま一度問い直しました」
本書は、定番のつまみ11品と酒の相性を徹底検証し、理想の「家飲み」を模索したエッセー風レシピ集だ。
「家にこもって、英文を含めたさまざまな文献・論文を読み、仮説を立て、キッチンで実験し、試食後、改善を加える。その繰り返しです」
と言う著者はまさしく“研究家”。刺し身の食べ方以外にも、「枝豆にはビールではなく日本酒を」「焼きおにぎりでは醤油ダレではなく味噌ダレを」など、従来の認識を覆す“研究成果”を、次々と発表してきた。
「めんどうくさい料理研究家といわれることも多いですよ。この本でも『オニオンスライスは3日、塩水につけて』だの『揚げジャガは揚げる前に3時間以上冷凍』などの結論を書きましたからね」
もともとは「男の料理」というウェブサイトでローストビーフなどの凝った料理ばかりを紹介していたが、本のオファーは簡単レシピばかり。そこで思い切って“一冊丸々1レシピ”の「男のパスタ道」という本を出したところ、評判がよかったという。
たとえばパスタをゆでる際、お湯に入れる塩の量について、段階的に濃度を変化させて、それを家庭内二重盲検法なる手段で比較するなど、画期的な内容だった。
「今回も、塩水につけたオニオンスライスの試食を繰り返しているうちに、味がだんだん分からなくなりました。でも結果は、自分史上最高の味になったと断言できます(笑い)。ポテトサラダの完成度も自信がありますね。これは短時間でできる電子レンジ料理法と蒸し器を使う方法の2つを紹介しています。調理法による違いまでも味わっていただけたら最高です」
ふだん料理に縁遠い人こそ、手間暇かけて作ることがおすすめだそうだ。
「きちんと丁寧に手順を踏む中で食材がどう変化して、どんな味になるのか、そういうプロセスをかなり理詰めで書いています。その変化を味覚だけでなく嗅覚、聴覚、視覚でも楽しむことで料理が好きになるでしょうし、何より酒に合う最高のつまみが出来上がりますよ。と言いつつ、すぐ作って飲みたい! というゲンダイの読者のためにコンビニ食材だけで出来て、簡単でうまい“つまみ”を考えてみました。ぜひ試してみてください」(NHK出版 780円+税)
[梅肉ゴーヤ]
(1)梅干しの種を取り包丁で細かく叩く(2)スライスしたゴーヤと①を和え、しばらくおく(3)水気を搾り、皿に盛る
[納豆とサバの油揚げ詰め]
(1)油揚げを半分に切って袋状に開く(2)中に納豆と缶詰のサバ水煮を詰める(3)フライパンで焼く
▽つちや・あつし 1969年、東京都生まれ。料理研究家、ライター。京都、海外、佐渡島生活などを経て、現在は山梨で主夫、畑仕事をしながら執筆活動中。主な著書に「男のパスタ道」「このレシピがすごい!」など。情報サイト・オールアバウト「男の料理」ガイドを務める。