「難民調査官」下村敦史氏
難民調査官とは、難民申請者が本当に母国で迫害される恐れがあるのかを調査するのが仕事で、経験ある入国審査官の中から法務大臣が任命する。
「先輩作家の方々がすでに取り上げている題材で書いても“劣化版”にしかなりません。難民調査官は僕が知るかぎり、こういう形で本になるのは初めてのはずです。今回あえて難民調査官に直接取材はせず参考文献や弁護士、支援団体への取材を基に創作したのも、資料が乏しい分、自分のオリジナリティーを前面に出せると思ったからです」
今でこそテレビなどでシリア難民らの映像を目にする機会が増えたとはいえ、まだまだ日本では現実味に欠ける難民問題。その難しさを著者は本作にどう反映させたのか。
「難民問題というのは本来、人道的な問題だと思うのですが、どうしても政治が絡んでしまうし、法律面、外国との関係など、取っ付きにくい部分があります。この作品でもその辺を乗り越えるために、まず自分が難民問題を知ろうというスタンスから、難民問題に関する賛否両論も広範に盛り込みつつ、サスペンスに仕上げました」