「くらべる東西」おかべたかし・文、山出高士・写真
日々、何億通もの「つぶやき」が人々の間を行き交い、流通は発達、地域間の精神的距離は短くなる一方で、日本中、どこもかしこもが均一化しつつある。しかし、目を凝らし、耳をそばだててみると、日常の意外な場所に、昔ながらの風習や慣習が今も厳然と残っていることに気づく。本書は、そんな東(関東圏)と西(関西圏)の文化の違いを紹介する面白写真集。
うどんのだし汁の違いや、エスカレーターで追い越し用にどちら側を空けておくかなど、東西の違いは定番のテーマだが、いざページを開いてみると知らないことばかりだ。
例えば冒頭に出てくる「いなり寿司」。東の人には俵形以外は思いもつかないが、西では三角形が定番なのだとか。俵形は、五穀をつかさどる稲荷神社に奉納する米俵の形にちなみ、三角形はキツネの耳や伏見稲荷大社のある稲荷山の形を模しているそうだ。
中のご飯も、東は白い酢飯が一般的だが、西では具が入っているものが多い。
一見では分からないのが冠婚葬祭のときにお金を包んで渡す「金封」。東は後ろの紙が左端に一列に見える「たとう折り」で、西は後ろの紙が上下に三角に見える「風呂敷折り」。
また座布団の中の綿がずれないように中央に通す「綴じ糸」(=締め糸)も、東は「十字」か「×」なのに対し、関西(とりわけ京都と滋賀)は「Y字」(もしくは人)なのだとか。
縄文土器も立体的な飾りなどがあって派手なのが東で、形と文様がシンプルなのが西と、東西の文化の違いはなんと古くは縄文時代からあるのだ。この違いは、現在の女性たちのファッションと正反対なのも興味深い。
消防署の建物正面に掲げられる「消防紋章」にも違いがあると知ってびっくり。真ん中の円の小さいのが東で大きいのが西なのだが、これは文化というよりは別の理由でこうなったのだが、説明すると長くなるので詳しいことは本書で。
その他、浴場の奥にあるのが東、真ん中にあるのが西という「銭湯の浴槽」や、生の魚介類を使うのが東、使わないのが西という「ちらし寿司」、すらっと伸びているのが東、途中で「く」の字に曲がっているのが西という「骨抜き」の形状など34組を写真とテキストで紹介、解説する。東西の違いをテーマにしたコラムや、カメラマンの撮影裏話などの読み物も充実。
ここで取り上げられた中にも、銭湯の浴槽のように、次第に消えつつある文化もあるという。
東西の文化の違いを手がかりに、日本の暮らしの豊かさを改めて教えてくれるお薦め本。(東京書籍 1300円+税)