「希望荘」宮部みゆき著
妻の不倫が理由で離婚し、義父が経営していた会社も辞めて、家庭も仕事も失った杉村三郎は、東京都北区の借家に小さな探偵事務所を開いた。調査会社の調査員をやりつつ、自分でも思いがけず開業した探偵業だったが、ついにご近所のご婦人が独立開業後の依頼人第1号として飛び込んでくる。
最近死んだはずの人とそっくりな人を別の町で見かけて仰天し、調べてほしいというのだ。さっそく杉村は死んだという老女の人間関係を調べ、目撃情報があった場所に出向く。そこで見えてきた事の真相とは……。
「誰か Somebody」「名もなき毒」「ペテロの葬列」に続く杉村三郎シリーズ。杉村役を小泉孝太郎が演じたTVドラマも人気となり、ファンにとって本書は待望の第4弾だ。収録されているのは、表題作「希望荘」をはじめ、「聖域」「砂男」「二重身」の4作。前作からさまざまな事件に巻き込まれた結果、運命に導かれるようにして探偵業に足を踏み入れたその顛末は同情を誘う。ひとりぼっちで無職の境遇になった主人公・杉村だからこそ気づく依頼人たちの繊細な心模様も、丁寧に描かれている。(小学館 1750円+税)