「陸王」池井戸潤著
埼玉県行田市にある「こはぜ屋」は創業100年を超える老舗足袋業者。需要の落ち込みにこのままでは先がないと危機感を募らせていた4代目社長の宮沢紘一は、足袋の製造技術を生かした裸足感覚のランニングシューズの開発を思いつく。
とはいえ、資金調達、シューズの専門知識、生ゴムに代わる新しいソール素材など問題が山積。それでも周囲の協力を得て、なんとか独創的なランニングシューズ「陸王」の試作品完成にこぎ着けるが、無名のブランドを誰も相手にしてくれない。
そこで、けがからの再起を図る長距離ランナーの茂木に陸王を履いてもらって知名度を上げる作戦に打って出る。こうして企業の存続を託すこはぜ屋と己の選手生命を懸ける茂木との二人三脚が始まるのだが、その前に有名スポーツメーカーが大きく立ちはだかる……。
中小企業の優れた技術力と人間的な強い結びつき、そこにのしかかる大企業の理不尽な圧力、負け組に対する銀行の無慈悲さなど、池井戸作品の定番ともいえる要素がふんだんに盛り込まれた企業再生の感動の物語。(集英社 1700円+税)