「井村雅代不屈の魂」川名紀美著
1984年のロス五輪から2004年のアテネ五輪まで、6大会連続で日本にメダルをもたらした「シンクロの母」。その手腕を見込まれて中国チームに招聘された時、折しも日中関係は悪化の一途をたどっており、「裏切り者」「売国奴」と激しいバッシングを受けた。しかし、井村は中国選手の育成に全身全霊で取り組み、日本代表が低迷する中、北京、ロンドン大会で中国にメダルをもたらした。
一度は井村を拒んだ日本のシンクロ界は、紆余曲折の末、再び彼女を迎え、リオに挑んだ。その井村の実像を丹念に取材し、エールを込めて描いた人物伝。
井村雅代は1950年、大阪生まれ。小学4年生の時、兄姉たちと名門・浜寺水練学校に通い始めた。そして、「シンクロって、きれい」という母の言葉に導かれて、シンクロナイズドスイミングを始めた。マイナーなシンクロの世界で選手となり、中学の保健体育の教師になってからも続けていた。
その後、浜寺のコーチになり、指導者として頭角を現していく。練習は過酷だ。選手たちには、円柱のような丸い体、競泳並みの体力、精神力、技術、芸術的表現力が求められる。井村は厳しくて怖いコーチだった。とにかく負けず嫌い。どんな相手にも思ったことをストレートに伝え、妥協も譲歩もしない。空気など読まないから、あちこちでぶつかり、つまずき、波風を立てる。だが、体格に恵まれない東洋人が欧米とメダルを争うには、井村の「本気」が必要だった。
大会ごとに「誰も見たことがない作品」を追い続ける井村が、リオ五輪で何を見せてくれるのか。間もなく結果が出る。(河出書房新社 1300円+税)