「北の富士流」村松友視著
横綱から親方を経て、今はNHKの大相撲解説者。男の色気を放つ粋な着物姿と、歯に衣着せぬ辛口の解説で、相撲中継の名物になっている。土俵上の力士への厳しい苦言にも、叱責にも、どことなくユーモアが漂い、まなざしに情が絡む。
テレビ画面からもにじみ出る北の富士の「人間味満開の男道」を、著者は「北の富士流」と呼ぶ。デビュー作「私、プロレスの味方です」でプロレス愛を熱く語った著者は、子ども時代から相撲とも「遠距離交際」を続けていたが、その交際を一気に深めるきっかけとなったのが北の富士だった。男も惚れる「北の富士流」とは何か。北の富士の半生をたどりながら、男道の核心に迫っていく。
北の富士、本名・竹沢勝昭は1942年、北海道・美幌町の生まれ。中学卒業後、知人の口利きで出羽海部屋に入門。横綱にまで上り詰める。親方となってからは、千代の富士、北勝海という2人の横綱を育てた名伯楽でもあった。
しかし、北の富士の常識は相撲界の非常識。常にマスコミを賑わせ、時に相撲協会を怒らせる。「夜の帝王」と呼ばれた遊び人で、スキャンダルには事欠かず。演歌のレコードを出してヒットさせたかと思うと、本場所休場中にハワイでサーフィン。断髪式のお色直しに白いタキシードを着て颯爽と登場する。
その結果、何を言われようと、言い訳も恨みつらみも口にせず、胸の奥底にのみ込んでいる。北の富士流には、「身銭を切ってこなしてきたこれまでの生き方全体から醸し出される比類ない味」がある。北の富士ファンたる著者の筆は冴えわたり、何ともチャーミングな男の肖像が浮かび上がる。(文藝春秋 1600円+税)