「何様」朝井リョウ著
直木賞受賞作「何者」は、男女5人の大学生が就活を通じて「何者」であるかを模索する青春小説。映画化され、間もなく公開される。本作は、「何者」のアナザーストーリー6編を収めた短編集。
「水曜日の南階段はきれい」は、バンド活動に熱中し、ミュージシャンを夢見ていた高校生・光太郎が、就活でなぜ出版社にこだわったのかが明かされる。彼を動かしたのは、高校の同級生夕子との卒業間際の淡い恋だった。
「むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった」には、光太郎の元恋人、瑞月の父親が登場する。ふとしたことで30代のマナー講師・正美と知り合い、真面目に頑張ってきた彼女の「むしゃくしゃ」に押し流されるように道をふみはずす……。
表題作「何様」の主人公は、人事部に配属された新入社員・克弘。駆け出しの面接官となり、おまえは人を選別できる人間か、と自問する。彼は「何者」の主人公・拓人と、小さな接点を持っている。
という具合に「何者」の登場人物が時間とポジションを変えて登場、さらに新しい人物も加わって、広がりと厚みのある物語が展開する。迷いながら、もがきながら、生きることに懸命な彼らがいとおしい。(新潮社 1600円+税)