「喪失の戦後史」平川克美氏
「歴史を振り返る上で大切なのは、自分を疑い、自分は何も知らないというところから出発することなんですね。私たちの祖先が何を選択してしまったのか。過去の為政者がどこで、どのような理由から、あり得たかもしれない現実から乖離し、希望を現実と読み替えてしまったのかを知ることだろうと思います」
本書は、音源配信サイト「ラジオデイズ」が企画した「平川克美の一〇〇分授業」の全6回の講義をまとめたものだ。
1950年に東京・蒲田駅に近いところで生まれ育った著者が、駅前のそば屋のテレビで見たプロレス中継や、羽田弁天橋で機動隊と学生との衝突などを目の当たりにした自分史と重ね合わせて、戦後70年を振り返った体験的戦後史論である。
「戦後の日本の歴史というのは、おおざっぱに言えば、食うや食わずの日本人がゆとりを持って生活できるようになるまでの近代化の歴史だったわけです。エンゲル係数は戦後5年目の1950年には57・4%と高い数値で、ほとんど食べるためだけに働いていました。それが、高度成長の終わる1973年には30%までに落ちます。収入も10倍以上になり、その70%を食費以外の、娯楽とか、教育費とか貯蓄などに使えるようになった。これはそれまでとは大違いなんですね。もはや労働は食うためのものではなくなった。その結節点が、オイルショックの1973年だったんです」