「国家とハイエナ」黒木亮著
今年の2月、アルゼンチンと米国ヘッジファンドとの間で争われていた債務返済に関して合意が成立したというニュースが報じられた。本書は、この国を相手取った訴訟に勝利を収めたヘッジファンドの実態を詳細に描いた本格国際金融小説。
「法律書を持ったハイエナ」の異名をとるサミュエル・ジェイコブスは、不良債権投資で巨利を得るヘッジファンドの創業者兼CEO。同社は破綻した国家の債権をタダ同然の安値で手に入れ、額面に金利や遅滞損害金を含めた金額を払えと米国や英国の裁判所で訴訟を起こし、投資額の10倍、20倍のリターンを上げ、〈ハイエナ・ファンド〉とあだ名される。
そのターゲットは、ペルー、ザンビア、コンゴ共和国、アルゼンチンといった重債務貧困国(HIPC)。債権回収のためには原油タンカーの差し押さえなど容赦なく、強力な弁護団を擁して国家を相手取る。こうした動きを阻止すべく奮闘するのが発展途上国支援のNGO。本書に描かれるヘッジファンド、国家、NGOの三つ巴の戦いは、ほぼ現実そのままというのが衝撃的。(幻冬舎 1800円+税)