「黒い巨塔 最高裁判所」瀬木比呂志著
主人公は、最高裁判所事務総局の民事局付になったばかりの笹原駿。東京地方裁判所民事部から米国大学の研究員を経験し、3年間の地方勤務を経て事務総局に赴任した彼は、今までとは全く違う、司法行政の世界を目の当たりにする。
特に最高裁判所長官というポストに位置する須田謙造の権力は群を抜いていた。彼の意向ひとつで、気に入らない人間のキャリアを葬り去ることは簡単だったため、多くの職員が目立たぬように息を殺して過ごすか、ご機嫌をとるしかなかったのだ。
ソ連の思想統制を彷彿させる雰囲気に違和感を覚えた笹原だったが、ある日裁判官協議会の進行担当局付に任命される。そこで取り上げられる議題は原発訴訟。水面下ではただならぬ力が働いていた……。
「絶望の裁判所」(講談社現代新書)などで裁判所の現状を鋭く突いた著者による、本格的な権力小説。フィクションという断り書きがありつつも、描いている裁判所の構造は現実そのものだ。戦前の司法省の上意下達のヒエラルキー体制を受け継いでしまった裁判所が、司法の役目を果たせなくなる恐ろしさが伝わってくる。(講談社 1600円+税)