「住友銀行秘史」國重惇史著
戦後最大の経済事件といわれるイトマン事件から四半世紀が過ぎた。バブル経済の真っただ中、中堅商社イトマンが闇の勢力に食いものにされ、メーンバンクの住友銀行は巨額な損失をこうむった。当時のイトマンの社長は住友銀行から派遣された河村良彦。「住友の天皇」と恐れられた磯田一郎会長の腹心だった。
イトマンのおかしな動きにいちはやく危機感を抱き、動き出した男がいた。当時、住友銀行業務渉外部部付部長で、後に取締役となった著者、國重惇史。彼は上着の胸ポケットに小さな手帳をしのばせ、社内外の動きを克明に記録しはじめた。「ローマ法王に仕えるにあらず、神に仕える」の心境だったという。
そして、大蔵省とマスコミに対して内部告発に踏み切る。日本経済新聞の敏腕記者、大塚将司をはじめ、メディアの力を使って問題の顕在化を図った。
社内が慌ただしい動きを見せる1990年3月から、イトマンの河村社長が逮捕される翌年7月まで、手帳は8冊に及んだ。この手帳をベースに書き上げたのが本書。大半の人物が実名で登場、渦中の臨場感、緊迫感が伝わってくる。
大組織の中にこんな人物がいたのか! 闘うバンカーの姿は、企業人の魂をゆさぶる。(講談社 1800円+税)