「つむじ」の流れで脳の異常が分かる?
白くなったり抜けたりと、その変化で我々を一喜一憂させる「毛」。そもそも毛とはどのようにして、何のために生えているのか。カート・ステン著、藤井美佐子訳「毛の人類史」(太田出版 2400円+税)では全身の毛という毛の持つ科学的、文化的、そして歴史的側面をひもときながら、毛の全貌を明らかにしていく。
毛にまつわる研究は世界各国で進んでいるが、近年の臨床研究からは脳が頭皮の毛包(毛を生産するための筒状の器官)の配列に影響を及ぼしていることが分かっている。その一例となるのが「つむじ」の形状。これが、脳の特徴や利き手を反映しているのだという。
アメリカの国立がん研究所の調査によると、右利きの人の90%以上のつむじが時計回りだったのに対し、左利きや両手利きの人ではつむじの向きとの関連が見られなかったという。ドイツのボン大学の調査では、つむじが時計回りの人は左脳の言語中枢の発達が顕著だが、反時計回りの人にはそのような特徴は見られないことを突き止めている。
また、知的発育不全の子供には、対照群と比較して2倍の頻度で複数のつむじがあることが分かってきたという。今後は、脳の隠れた異常を知らせるサインとして、つむじが役立てられるかもしれないと本書。
多くの哺乳類と比較しても、人類は体毛の多くを失っているが、これも脳と関わりが深いといわれている。ヒトの祖先は、およそ100万~300万年前、脳の大型化が進んだのと同じタイミングで、全身を覆っていた被毛を失っている。これは、ヒトを進化させた大型の脳が、体温の上昇に極めて敏感だったことが要因。進化を加速させるために、ヒトは密集した体毛を捨て去り、代わりに汗腺を獲得して体温調節機能を高めたと考えられている。
ちなみにチャールズ・ダーウィンは、体毛が薄いメスに性的興奮を覚えたヒトの祖先の嗜好により、性淘汰が起きてヒトの無毛化が進んだと提唱しているという。
他にも、毛の意外な用途から最新の毛根再生研究まで、毛にまつわる話が盛りだくさんだ。