「廃墟遺産」アレッサンドロ・ビアモンティ著 高沢亜砂代訳
世界には多くの名建築が存在し、それらは観光スポットとして、訪れる人が絶えない。本書は、そんな名建築とは対極にある「建築の特殊な失敗例」を集めた写真集である。
世の中のあらゆる建築は、何らかの目的があって計画され、建築家の理念や時代の空気をまとって建てられる。しかし、その計画が実現しなかったり、計画通りにならなかったとき、「人間の思考の痕跡を示す廃墟」ができあがる。
廃墟からは、歴史的建造物が放つ美しさや、幾世代にもわたってしみ込んできた先人たちの建物への愛着などは伝わってこず、逆に見る者の心に痛みを感じさせる。しかし、同時に、廃墟には「私たちを立ち止まらせる何か、引き寄せる何か」がある。
そんな世界各地のとびっきりの廃墟25物件を紹介する。
何でもスケールが桁違いの中国は、廃墟もまた別格。北京から500キロ西の内モンゴル自治区のオルドス市にその「カンバシ新区」はある。天然資源の豊富なこのエリアで2004年に始まったプロジェクトは、1600億ドルもの資金が注ぎ込まれ、100万人が暮らす都市をつくるという壮大な計画だった。
しかし、現在、林立する高層マンションは工事が止まり、建築用の養生やクレーンは放置されたまま。100万人分の住居の他に、空港や病院、公共交通機関も整備されたが、実質的な住人は3万人に満たないという。ゴーストタウンという言葉が、これほどぴったりの場所もない。
ベルギーの人口20万人の街、シャルルロワの地下鉄の支線「シャトレ線」は計画途中で放棄され、6.8キロの線路と完成した4つの駅、工事中の4つの駅が、一度も使用されないまま30年以上が経過している。「ネフト・ダスラーリー」は、アゼルバイジャンの沖合約42キロのカスピ海の水上につくられた都市。現在は立ち入りが制限されているが、もともとは約5000人居住が可能な石油採掘施設で、街を構成する土台は総延長350キロに及ぶ金属製のブリッジで結ばれている。
その他、クリミア原子力発電所、北朝鮮・平壌の超高層ホテル「柳京ホテル」、ベネズエラ・カラカスの45階建てのオフィスビル「ダビドの塔」など未完のまま放棄されたものから、日本のディズニーランドを目指し1961年に開業した「奈良ドリームランド」やアメリカ・コロラド州の巨大ショッピングモール「シンデレラ・シティ・モール」のように、一時は成功を収めたものの、道半ばで行き詰まり、廃業に追い込まれたものまで。それぞれの経緯や概要、現在の姿を多くの写真を添えて巡る。
それらを眺めていると、「つわものどもが夢の跡」「盛者必衰の理」などという言葉がふと脳裏をよぎり、考えさせられる。(エクスナレッジ 2800円+税)