「僕は奇跡なんかじゃなかった」カール・レーブル著 関根裕子訳

公開日: 更新日:

 神様、帝王、魔術師、暴君、計算高い完璧主義者、奇跡のカラヤン……。カラヤンはさまざまな呼ばれ方をする。ベルリン・フィルの音楽監督を34年務め、20世紀の楽壇を牽引したマエストロは、称賛と同じくらい、誹謗・中傷にもさらされた。どこまでが伝説で、どこまでが実像なのか。カラヤンと親交があったウィーン生まれの音楽ジャーナリストが、真実を描き出そうと試みた。

 浮かび上がってくるのは、完璧を求めて努力を惜しまない天才の壮絶な姿だ。

 音楽に対してとてつもない情熱を持ち、湧き出るアイデアを理想的な形で実現するためなら、妥協しない。確執も軋轢も気にとめない。その姿はときに冷徹に見えた。指揮者の枠に収まりきれず、オペラの舞台演出家、音楽祭のマネジャー、先駆的な音楽ビジネスを手掛ける企業家と、カラヤンは活動領域を広げていく。演奏家にとっては頼りになるトレーナーで、彼らの多くはカラヤンの指揮で演奏することを好んだ。「彼に見つめられるだけで電流が走ったみたいになって、安心できるんだ」と、若き日のテノール歌手ホセ・カレーラスは語っている。

 プライベートでは3度結婚。多忙な時間を縫ってスキーや乗馬を楽しみ、スポーツカーを乗り回し、飛行機を自ら操縦した。しかし、派手なイメージとは裏腹に、ケガや持病で全身に痛みを抱え、激痛に耐えて長大な交響曲を指揮することもあった。21歳で地方の小さなオペラ劇場の指揮者になってから81歳で亡くなる直前まで、この天才は並外れた勤勉さと忍耐力で音楽と向き合い、録音や映像など膨大な遺産を残した。没後27年が過ぎても、カラヤンはクラシック音楽界の巨星として輝いている。(音楽之友社1850円+税)

【連載】人間が面白い

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    僕がプロ野球歴代3位「年間147打点」を叩き出した舞台裏…満塁打率6割、走者なしだと.225

  2. 2

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  3. 3

    “玉の輿”大江麻理子アナに嫉妬の嵐「バラエティーに専念を」

  4. 4

    巨人「先発6番目」争いが若手5人で熾烈!抜け出すのは恐らく…“魔改造コーチ”も太鼓判

  5. 5

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  1. 6

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 7

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  3. 8

    【独自】フジテレビ“セクハラ横行”のヤバイ実態が社内調査で判明…「性的関係迫る」16%

  4. 9

    大江麻理子アナはテレ東辞めても経済的にはへっちゃら?「夫婦で資産100億円」の超セレブ生活

  5. 10

    裏金のキーマンに「出てくるな」と旧安倍派幹部が“脅し鬼電”…参考人招致ドタキャンに自民内部からも異論噴出