小沢さん、長生きしてくださいね

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「私のつづりかた」小沢信男著 筑摩書房 1800円+税

 このところ松坂屋の跡地にGINZA SIXができたり、長年親しまれたソニービルが閉館となるなど、銀座が様変わりしている。そのソニービルが面する外堀通りを新橋方向に行くと、土橋交差点の手前にリクルートGINZA8ビルがある。今から80年前、ここには虎屋自動車商会というハイヤー会社があった。その虎屋の次男に生まれたのが作家の小沢信男。その小沢が、1935年、小学校2年生の時に書いたつづり方(作文)全17本とそれに関連する図画を枕に、来し方の思い出をつづったのが「私のつづりかた――銀座育ちのいま・むかし」である。

 泰明小学校に通う小沢少年が覚えたての片仮名で書いた祭りや遠足の作文、いささかデフォルメしていると思われる素朴な絵を手掛かりに、80年後、時に現地に足を運び、時にネットで検索をしながら検証していく。そうすると、当時の銀座の町のたたずまい、同級生らの顔、両親の働く姿、そして幼いながら複雑な少年の心境が浮かび上がってくる。これがなんともしみじみと、胸を打つのですねえ。

 鶴見俊輔は、小沢の文章について、「いつのまにか記憶の底からぬけだし、一個の空中浮遊物として自由な運動をはじめている」と評したが、まさにこの本を読んでいるうちに、自らの記憶も呼び覚まされ、しばしタイムトラベルの旅人となってしまう。

 このつづり方は1936年の二・二六事件の前で終わっているが、「小説昭和十一年」は、少年の目で、この時代を生き生きと描いた傑作で、刊行順序は逆だが、この「つづりかた」の続編。残念ながら新刊は手に入らない。図書館か何かで読むことをお勧めします。

 泰明小学校卒業後、府立六中へ入学するが、肋膜炎で2年間休学。以来ひ弱、虚弱というのが小沢信男の自己イメージだったのだが、この6月で御年90歳。小沢さん、長生きしてくださいね。〈狸〉

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