「アメリカ マイノリティの輝き」鎌田遵著

公開日: 更新日:

 研究者としてアメリカの先住民や、非合法移民らと接してきた著者が、彼らマイノリティーの今を撮影した写真集。

 ラティーノ・ラティーナ(ヒスパニックとも呼ばれる中南米からの移民およびその子孫。ラティーナは女性形)の移民文化が色濃く息づくサンフランシスコのミッション地区。日曜日の昼下がり、広場の雑踏の中に、民族衣装を身にまとったダンサーたちが突然現れ、ドラム演奏に乗ってダンスが始まる(写真①)。

 カリフォルニアは、1846年までメキシコの一部であり、メキシコ先住民の彼らのダンスには、「先祖が残した大地はひとつだ」との思いが込められているようだったと著者は言う。

 町のアパートや商店の壁面(写真②)は、パワフルな壁画で埋め尽くされ、芸術的な刺激に満ちている。皮肉なことに、こうした街並みが白人富裕層に注目され、不動産の高騰を招き、移民たちを苦しめているという。

 カメラは続いて、サンフランシスコの市庁舎前で、警官によってメキシコ系アメリカ人のニエトやアフリカ系アメリカ人のウッズが射殺された事件への抗議デモに向けられる。

 ニエトは公園にいただけだが、彼を不審者とみた通行人の通報で駆け付けた警察官によって射殺されたそうだ。

 瀟洒な市庁舎の周辺には、多くのホームレスが寝起きしている。

 サンフランシスコは、アメリカの「LGBT」の中心地のひとつでもある。世界各地から集まったLGBTの人たちによるダウンタウンの目抜き通りのパレードは、祝祭の喜びにあふれているかのようだ(写真③)。レズビアンもゲイもバイセクシュアルもトランスジェンダーも、ここでは自分自身であることを認められ、堂々と胸を張って生きている。

 ハロウィーンの夜、LGBTの人たちが集まるカストロ・ストリートで撮影した写真には、より一層、自身を解放した彼らの姿が映っている。

 LGBTの人にやさしい街は、障害者や有色人種などあらゆる社会的弱者にとっても居心地がいい。その心地よさをどこまで維持し広げていけるかがアメリカのこれからの課題であると氏は指摘する。

 第4章は、それまでの華やかさや色彩に満ちた(全編白黒写真なのだが、それでも感じる色彩)作品とは一転し、砂漠の中の廃虚が並ぶ、音のない世界が広がる。

 戦時中の日系人強制収容所の跡地だ(写真④)。かつて私たち日本人もかの地ではマイノリティーだったのだ。

 トランプ政権の誕生で、脅かされつつあるアメリカ最大の強みであり誇りでもある多様性について考えさせられる。(論創社 3600円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が戦々恐々…有能スコアラーがひっそり中日に移籍していた!頭脳&膨大なデータが丸ごと流出

  2. 2

    【箱根駅伝】なぜ青学大は連覇を果たし、本命の国学院は負けたのか…水面下で起きていた大誤算

  3. 3

    フジテレビの内部告発者? Xに突如現れ姿を消した「バットマンビギンズ」の生々しい投稿の中身

  4. 4

    フジテレビで常態化していた女子アナ“上納”接待…プロデューサーによるホステス扱いは日常茶飯事

  5. 5

    中居正広はテレビ界でも浮いていた?「松本人志×霜月るな」のような“応援団”不在の深刻度

  1. 6

    中居正広「女性トラブル」フジは編成幹部の“上納”即否定の初動ミス…新告発、株主激怒の絶体絶命

  2. 7

    佐々木朗希にメジャーを確約しない最終候補3球団の「魂胆」…フルに起用する必要はどこにもない

  3. 8

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 9

    フジテレビ「社内特別調査チーム」設置を緊急会見で説明か…“座長”は港社長という衝撃情報も

  5. 10

    中居正広「女性トラブル」に爆笑問題・太田光が“火に油”…フジは幹部のアテンド否定も被害女性は怒り心頭