「MORNING LIGHT」吉村和敏著
出勤ラッシュだろうか、片道4車線の道路をバイクが埋め尽くす台北の市街や、サトウカエデなどの落葉広葉樹の葉が朝日に輝くカナダ・ローレンシャン高原の豊かな森、まだ住人も観光客もベッドの中にいるのだろうか一日の始まりを静かに待つクロアチア・ドブロブニクの港など。街や風光明媚な観光地、そして人の気配のない自然の風景まで、一日の始まりを迎えた世界各地の朝を撮影した写真集。
明けない夜はないとよく言われるように、朝は世界中、誰にも平等にやってくる。言ってしまえば、ただの昨日の延長であり、人生の通過点かもしれないが、朝の空気は心や体を一新するような清涼感に満ちている。そうした世界各地の生まれたての風景にカメラを向ける。
表紙は「アルプスの瞳」と称されるスロベニアのブレッド湖。湖の中の小島に17世紀に建てられた聖母被昇天教会が朝日に照らされ、一帯はまさに荘厳な空気に包まれる。
ソロモン諸島のサンタイサベル島の人口約300人の村トレイグの海辺では、朝の漁を終えた漁師だろうか小舟を引いて浜に向かう村人がシルエットになって浮かび上がる。
小さな入り江の鏡のような水面に映し出されるアイスランドの小さな街・イーサフィヨルズル、まだ喧騒の始まらぬ早朝から営業をするベトナム・ハノイの露店の花屋、インド独立の父マハトマ・ガンジーの慰霊碑がある公園ラージ・ガートの一角で瞑想する男性、船が行き交うボスボラス海峡を見下ろすトルコ・イスタンブールのスルタンアフメット・ジャーミー(ブルーモスク)など。
今日という日が始まる、それぞれの朝の一瞬を一枚の写真に凝縮する。
ペルーのマチュピチュや、カンボジアのアンコールワット、ギリシャ・サントリーニ島など、世界的観光地の朝の美しい光景もある。
一方で著者は、イタリアの中世そのままのようなジェラーチェの街角で立ち話をする婦人たちや、フランスのパリの石畳で犬の散歩をする人、カナダのカルガリーの牧場の厩舎で馬の世話をするカウボーイなど、そこで暮らす人々の一日の始まりも活写。
最後の最後にそっと添えられた海から昇る黄金の雄大な太陽の写真は、東日本大震災の津波で町の4分の1が浸水した宮城県七ケ浜町の港で撮影されたものだ。
朝がくることを知っているから、人間は今日という日を精いっぱい生きることができるのだ。(小学館 3000円+税)