心に住みついたうさぎに促され、吹奏楽部に
「楽隊のうさぎ」中沢けい著 新潮文庫 550円+税
【話題】昨年は、直木賞と本屋大賞をダブル受賞した恩田陸の「蜜蜂と遠雷」といい、「マチネロス」という言葉を生み出した平野啓一郎の「マチネの終わりに」といい、上質な音楽をテーマにした小説が話題となった。音楽を文字で表現するのはなかなかに難しいが、その難問に果敢に挑戦している作品も少なくない。
本書は、全国大会を目指す中学校の吹奏楽部を舞台に、思春期の少年の繊細な心模様が丁寧に描かれている。
【あらすじ】新中学生となった奥田克久は、小学校のときにいじめられており、自分の心を塗り固めることが身につけた知恵だった。ところが、近くの公園でうさぎを見かけたことで変化が起こる。
彼の心に住みついたうさぎが事あるごとに何か促すのだ。小学生のときにいじめられていた相手に、部活はどうするのかと聞かれたときも、うさぎに吹奏楽部に入ると言わされてしまった。実は、数日前に吹奏楽部に勧誘されており、それが思わず口に出たのだ。
こうして、学校にいる時間をなるべく短くしようと思っていた克久は、全国大会出場の常連校で、学内でも一番、在校時間の長い吹奏楽部に入ることになった。
克久のパートはティンパニー。初心者にもやりやすい楽器だが、練習を積むうちに徐々にその奥深さを知る。そして、2年生になると憧れの普門館出場のチャンスが巡ってくる……。
【読みどころ】克久と同じパートで何事も真っすぐな「しょうちゃん」、音楽のことしか頭にない部活顧問の「ベンちゃん」といった個性的なメンバーと一緒に音楽をやっていくことで、ようやく自分の居場所を見つけることのできた少年の成長物語でもある。2013年に鈴木卓爾監督によって映画化されている。
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