「福袋」朝井まかて著
短編はあまり得手でないという著者の初の時代小説短編集。
収録されているのは全部で8編。不得手といいつつ、いずれも趣向が凝らされて見事な仕上がり。登場人物たちも実に多彩。
3代目鳥居清忠からしがない看板書きの手に渡った「筆」(「ぞっこん」)。ひいきの客を得て、千両役者になることを夢見る大部屋の歌舞伎役者(「千両役者」)。働き者の母親に楽をさせたいと願うけなげな湯屋の一人娘(「晴れ湯」)。兄嫁を疎ましく思っているが、その兄嫁の思わぬ素顔を知って驚く古着屋の娘(「莫連あやめ」)。出戻りの姉を大食い大会に出して賞金を稼ごうとする乾物屋の主人(「福袋」)。かつて自分が描いた春画を見せられて動揺する女絵師(「暮れ花火」)。神田祭の差配を任されて右往左往する堅物の家主(「後の祭」)。その日暮らしの気ままな生活から一転、商売に目覚めた若者(「ひってん」)。
笑いあり、涙あり、ドラマありと、江戸庶民の哀歓を活写した、著者の新境地を示す短編集。(講談社 1600円+税)