夏休みに読みたい「三国志」特集
「三国志事典」渡邉義浩著
強大な漢帝国の崩壊とともに始まった中国の群雄割拠の時代。乱世に身を投じた曹操、孫堅、劉備らによる「三国志」の歴史ドラマは、1800年を経た今なお現代人たちの胸を熱くさせる。今週は、時代を超えて愛されてきたこの「三国志」の世界を案内してくれる本を紹介する。
吉川英治の小説をはじめ、マンガや人形劇、そしてゲームまであらゆる媒体で人気を集める三国志。それらは明の時代に描かれた中国の歴史小説「三国志演義」を原典としている。今では三国志といえばこの三国志演義を指すことが多いが、そのベースとなったのが歴史書の正史「三国志」だ。
本書は、三国志研究の第一人者によるその正史「三国志」の事典。
「魏書」30巻・「蜀書」15巻・「呉書」20巻という3部構成からなる三国志は、陳寿という人物が、彼が仕えていた蜀漢をはじめとする三国の歴史を、当事者の子孫など関係者がまだ生きていた西晋時代に著した。陳寿の死後、約130年経ったころ、劉宋の文帝に命じられた裴松之という政治家が、大掛かりな手をくわえ、読み物としての面白さが加わり、今に至ったという。
陳寿の生涯にはじまり三国志の成立過程などの基礎知識から、魏・蜀・呉のそれぞれの国の歴史概略や、立伝されている人物などを解説する。
三国志に描かれる「名場面四十選」も紹介。曹操のもとに下った関羽が、劉備のもとに戻る「関羽の義」、自己の集団に足りなかった名士を求めて、諸葛亮を3度訪ねて招聘する「三顧の礼」、あの「赤壁の戦い」、そしてことわざにもなっている「死せる諸葛、生ける仲達を走らす」など。原文を添えながら、その概要を解説。さらに三国時代の思想や文学の動向、日本で「魏志倭人伝」と呼ばれる三国志の巻三十鮮卑・烏桓・東夷伝の倭人の条についても詳述する。
三国志のドラマを正確な歴史と照らし合わせながら理解するためのサブテキストにおすすめ。(大修館書店 3600円+税)