倍政権の横暴にちらつく 昭和初年代ファッショ化への暴走
「軍が警察に勝った」日山田邦紀著
満州事変で大陸進出・植民地化の欲望を肥大させていた当時の日本。昭和8年、大阪市の中心部、天六交差点でささいな事件が起こった。赤信号をふらふら渡った兵士を警官が注意したところ、取り調べの派出所内で兵士と警官が殴り合いになり、これを機に軍部と警察(内務省)が政治対立、ついに昭和天皇の声がかりでやっと収束したのだ。これが昭和史に知られた「ゴー・ストップ」事件。警察が大幅に譲歩した幕引きは明らかにファッショ化にばく進する昭和日本の象徴的な事件となった。
本書はその過程をたどったジャーナリストのルポ。当時の内部報告書などを丁寧に検証した歴史ドキュメントだ。「またも負けたか八連隊」の決まり文句で知られた反権力の都市だったはずの大阪で、軍と警察が官僚主義丸出しで一歩も譲らなかった揚げ句、マスコミ各社がそれぞれの肩を持ってあおり、あっという間にファッショ化への道を転がり落ちていったことがよくわかる。
庶民感情が、抵抗の根拠にも翼賛の拠点にもなるということの貴重な教訓。それをかみしめる著者の心持ちが行間から伝わる。(現代書館 2200円+税)
「『天皇機関説』事件」 山崎雅弘著
天皇機関説とは、日本国をひとつの法人(法的人格)であるとすれば君主や議会などは国家の一機関であることになり、ひいては天皇も日本国という法人の一機関となる、という憲法学上の定説。これを説いた東大の憲法学者で貴族院議員でもあった美濃部達吉の持論に対して右翼政治家の貴族院議員で軍人の菊池武夫が論難を浴びせ、ついには美濃部を議員辞職にまで追い込んだ。
この、いわゆる「天皇機関説」事件の全容をわかりやすく解説した書。(集英社760円+税)
「特高と國體の下で」孫栄健著
日露戦争に勝利した日本は西洋列強に伍した自信を深め、植民地支配への欲望をたぎらせた。その表れが1910年の韓国併合。当時の日本自体が一握りの富豪と大多数の貧困層に二極化された典型的な後進国だったが、だからこそ植民地を欲し、徹底した収奪を狙ったのだ。
本書は、この時代に生まれ、貧窮の中で日本に渡り、堺の在日朝鮮人労働者として同胞との夜学校に通いながら特高警察に弾圧を受けた在日1世・朴庸徳氏の回顧録。個人史ならではの細部が教科書的な知識を圧倒する。本書の著者は戦後まもなく関西に生まれた在日3世で、およそ30年前に朴氏に出会ったことから本書のモチーフを得たという。(言視舎 2200円+税)