「怪談」小池真理子著
秋のある日、「私」は湖畔のペンションに向かう。タクシーの運転手は、ペット連れを受け入れることで知られるそのペンションに、単身で向かう私をいぶかる。実は、20年前、私が28歳のときにそのペンションに愛犬とともに宿泊した知人の達彦が「犬をよろしく」と書き置きを残し、岬の断崖から身を投げたのだ。
当時、達彦から求愛されていた私は、最後までそれを受け入れなかった。それが彼の自殺の原因かどうかは今も分からない。以来、人生がうまくいかず、同じところをぐるぐると回っているような気がする私は、達彦が最後に宿泊したペンションが閉鎖すると聞き訪ねることにしたのだ。(「岬へ」)
名手がつづる幻想怪奇小説集。
(集英社 600円+税)