読後、仏教のイメージが一変
「ごまかさない仏教 仏・法・僧から問い直す」佐々木閑、宮崎哲弥著/新潮社 1400円+税
現代の日本人が仏教に対してもっているイメージは、葬式や初詣を通じてある程度身近に感じてはいるだろう。
しかし、キリスト教の聖典は「聖書」、イスラム教の聖典は「クルアーン(コーラン)」とすぐに出てくるが、仏教の聖典は? と聞かれてもすぐに答えられない人がほとんどではないだろうか。
本書は、仏教者である評論家の宮崎と仏教学者の佐々木とが、ブッダの死後、さまざまに流し込まれた夾雑物(きょうざつぶつ)=ごまかしを排し、ブッダの思想の本質、仏教の真義を明らかにしようという対談集である。結論を先にいえば、読後、仏教に対するイメージが一変した。
というのも、我々が空海、親鸞、道元、日蓮といった宗祖たちから抱く仏教のイメージは大乗仏教のものだったからである。大乗仏教はブッダ没後500年近く経って現れた新たな宗教運動であり、その中でつくられた経典は新しく、ブッダ直説のものではないという。従って聖典も、大乗仏教以前のパーリ語で書かれた「阿含・ニカーヤ」と呼ばれる上座部仏教(かつては小乗と賤称〈せんしょう〉されていた)の初期経典ということになる。まずこの前提を理解しないと、続く議論についていけない。
次に、「仏・法・僧」の三宝がそろった宗教活動が仏教であると定義される。「仏(ブッダ)」は釈迦のこと、「法(ダンマ)」は釈迦の教え、「僧(サンガ)」は僧侶の修行組織。この仏・法・僧のそれぞれに即して仏教の根本原理本質が説かれていく。
ブッダの生涯、仏教の基本OSたる「縁起」「一切皆苦」「諸法無我」「諸行無常」などの解説がされていくのだが、内容はかなり高度。それでも、ブッダの直説に迫ろうとする仏教学の最前線の研究動向を垣間見ることもでき、現代社会における仏教思想の豊かな可能性も示唆されており、得ることの多い書だ。
〈狸〉