「応援しがいのなさ」で離反する巨人ファン
かつて、“巨人にあらずんばプロ野球にあらず”という時代があった。しかし今では、“カープ女子”なる熱狂的な広島ファンの女性たちが登場し、日本の野球よりメジャーリーグを楽しむファンも増えている。
菊地高弘著「巨人ファンはどこへ行ったのか?」(イースト・プレス 1500円+税)では、巨人に熱狂していたことのある“元巨人ファン”を徹底追跡。かつての恋人(巨人)をなぜ捨てたのかを、自身も“元巨人ファン”という著者が分析している。
毎年開催されている「東京野球ブックフェア」でアンケート調査を実施したところ、巨人ファンをやめた理由でもっともポピュラーだったのが「球団の体質に嫌気が差した」というもの。古くは「江川問題」から、有望新人をかっさらう金満体制なども挙げられている。父親の影響で幼少期から自動的に巨人ファンになったが、大人になって巨人の暗部が見えてきて冷めた、というケースが目立ったという。
他にも、「好きな選手が退団した」「メジャーを見るようになったから」などの理由が続く中、意外に多かったのが「巨人は応援のしがいがない」という理由だ。借金地獄にあえぎ、当時の高田繁監督の休養まで発表されたヤクルトの惨敗を見た瞬間に「自分がヤクルトを応援しなければ!」というスイッチが入ったという男性。巨人は試合後の出待ちをしても遠くから眺めるしかできなかったが、横浜は選手との距離が近く、感激して横浜びいきになったという女性もいた。他チームの方が、応援する意義があると感じる野球ファンが増えているようだ。
巨人ファンをやめたことを後悔していますか?という問いに「はい」と答えた人は0人という衝撃的な結果も出ている。一方で、巨人について思うことという欄には、「いつまでも強くあって欲しい」「“紳士たれ”の原点に返って」「由伸監督頑張って!」などの好意的な意見が多かったという。「別れた恋人には幸せになって欲しい……」という心理に近いのではないかと本書。
テレビで巨人戦しかやっていない、という時代は終わった。選択肢が増えればファンは分散する。それでも、圧倒的に強いチームであることを求められるのが巨人の宿命のようだ。