作家・森沢明夫氏 「幸せとは小さなドラマに気づくこと」

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 どこにでもある日常を人情味豊かに描き、その多くが映画ドラマ化されてきた作家・森沢明夫氏による1カ月読み切りの5話連作長編小説「水曜日の手紙」が、いよいよ来週月曜日からスタートする。5月掲載の第1話は「井村直美の空想」だ。

■実在の「水曜日郵便局」を題材に

 主人公は都市郊外に住む井村直美。自営業で多忙な夫を持つ、40代の主婦だ。パートと家事でクタクタの毎日を送っていたある日、同級生の伊織に「水曜日郵便局」なるものを聞かされるところから、物語は幕を開ける。

「本作は、実在する水曜日郵便局を題材に取った連作小説です。1カ月1話読み切りで、水曜日郵便局から手紙を受け取った登場人物2人の人生が変わっていくというストーリーを予定しています。このユニークな名前の郵便局は、水曜日の出来事を書いた手紙を郵便局宛てに送ると、局員がそれらの手紙をシャッフルして誰かに送るという仕組み。一方通行の片道書簡で、昔のボトルメッセージのようなものですね。この話を聞いたとき、SNS時代に手紙を書くというアナログさはもちろん、巡り合うことのない他人の日常と出会うのは面白い、これは物語になると思ったんです」

 郵便局があるのは、東日本大震災で被災した宮戸島(宮城県東松島市)の旧鮫ケ浦漁港。素掘りのトンネルを抜けた先の浜辺に、漁師小屋を改装した郵便局がたたずんでいる。

 もともとはアーティストたちが企画したプロジェクトで、熊本県南部の津奈木町に続き(現在は終了)2カ所目の開局になるそうだ。片道書簡は「赤崎水曜日郵便局」というタイトルで書籍化されている。

「本を読んだのですが、普通の人の水曜日って小さなドラマがたくさんあるんだ、と気づかされましたね。水曜日は1週間の真ん中で、一番何もなさそうな日じゃないですか。そんな何でもなさそうな日に、人生の小さなプレゼントが転がっている。僕は人間の幸せというのは、小さなドラマに気づいて味わっていくことだと思っていて、日常の小さな心の動きにつながる仕掛けとして、手紙はぴったりでした」

 第1話の主人公・直美は、どこにでもいそうな主婦。はた目には恵まれているように見えるが、一歩家庭に入れば家族からないがしろにされ、成功した夫を持つ同級生の伊織に嫉妬するなど、人生をこじらせている。

「ぜひうちの奥さんは大丈夫かなと顧みていただきたい(笑い)。でも仕事と家事でいっぱいいっぱいになっている直美はサラリーマンの姿にも重なると思うんです。疲れてネガティブになって、直美の口ぐせである『最悪』に類する言葉を無意識につぶやいている、という人も多いんじゃないでしょうか」

■未来や環境は「自分で引き寄せている」

 心理学の実験で、被験者に青いモノを探せと命じたあと『赤いモノはどこにあったか』と聞くと、大多数が答えられなかったという。つまり、自分が使う言葉は自分が見ている世界であり、「考えられる世界の限界値だ」と著者。

「直美のようにサイアクと思って生きていると、脳が勝手にサイアクな事柄ばかりを見つけてくるんです。未来や環境は運と考えがちだけど、実は自分で引き寄せているんですね。だから1話の直美の日常を読んだら、きっと『普段の言葉に気を付けよう』と背筋がピンッとなりますよ」

 鬱々としていた直美だったが、ふと思い立ち、“水曜日の手紙”を書くことに。そのたった1つの行動が直美の人生を変えていく。

「1話と4話は直美、安定か夢かの選択を迫られる男性の物語が2話と5話。そして3話ではその2人に“影”で関わる人物が登場します。互いは決して会うことのない、三人三様の物語でありながら、背景でゆるやかにつながりを持っています。3人とも自分では変えられない環境に身を置き、もがいています。僕もサラリーマンの経験があるので、上司や取引先など自分では変えられない、もどかしさはよくわかります。そんな与えられた環境の中で何を見て、どう判断すれば自分の人生をよりステキにできるか、この物語にヒントを詰め込んでいくつもりですので、そのあたりも楽しんでもらえたら」

 読んだ後、「幸せな気持ちになる」と評判の著者の作品群。本作もどうぞお楽しみに。

▽もりさわ・あきお 1969年、千葉県生まれ。2007年「海を抱いたビー玉」で小説デビュー。高倉健の遺作映画として話題になった「あなたへ」をはじめ、吉永小百合主演「虹の岬の喫茶店」、有村架純主演「夏美のホタル」など、映画化・ドラマ化された作品は多数。「きらきら眼鏡」は今秋に映画公開予定。

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