主演男優が往年の力道山そっくり
韓国現代史上最大の暗部・光州事件の実話を人情喜劇にした「タクシー運転手」、大統領疑獄事件のたびに注目される大検察庁の風刺劇「ザ・キング」など話題作つづきの韓国映画。「ノワール」と称される暗黒映画も、かつて一世を風靡した香港映画は絶不調、邦画はアニメと高校生向け純愛ものばかりでいまや韓流ノワール一辺倒だ。
先ごろは「コンフィデンシャル/共助」と「悪女/AKUJO」が目を引いたが、この連休期間も先週末封切りの「犯罪都市」につづき、今週末は「名もなき野良犬の輪舞」が公開される。
「犯罪都市」は朝鮮族(朝鮮系中国人)のヤクザと対決する地方警察の実録もので、暴力描写主体の今風ノワールと人情刑事ものの盛り合わせみたいな作り。特に主演の刑事役マ・ドンソクが往年の力道山そっくりの容姿で豪腕をふるう姿に愛嬌があって、これがいい。
他方、「名もなき――」は刑務所仲間が極道界でのし上がっていく典型的な現代ノワールだが、主演のソル・ギョングはサイコホラー「殺人者の記憶法」が公開されたばかり。人気俳優ほど新作の出来も安定して高いのはコンテンツ制作の仕組みがいいということで、これが日・香にない韓流の強みだろう。
実は韓国映画がいまの水準に達したのはこの20年足らずの話。そこに至る歩みとグローバル化の経緯は鄭琮樺著「韓国映画100年史」(明石書店 3200円+税)にくわしいが、即効のガイドなら「韓国映画 この容赦なき人生」(鉄人社 1714円+税)。担当編集者の熱意だけで作ったみたいな“昭和の読後感”がある。
<生井英考>