「初代『君が代』」小田豊二著
このところ、映画「君の名は。」の主題歌「前前前世」が大ヒットした人気ロックバンドRADWIMPSの新曲「HINOMARU」が物議を醸している。「気高きこの御国の御霊 さぁいざゆかん 日出づる国の御名の下に」といった歌詞が軍歌のようだと批判され、作詞したボーカルの野田洋次郎がSNSで謝罪した。
一方、その批判に疑問を呈し、謝罪する必要がないとの意見も。野田は「右も左もなく、この国のことを歌いたいと思いました」と説明しているが、日本の国歌の成り立ちを論じた本書は、こうした議論に別の視点から光を当てるものだ。
現在知られている「君が代」は明治13(1880)年に作曲し直されたもので、実はそれ以前にイギリス陸軍軍楽隊長J・W・フェントンの作曲による初代「君が代」があった。本書は、その初代の歌詞がどうやって定まり、なぜフェントンが作曲することになったのか。そしてそれが作り直されるに至る経緯を追ったものだ。
明治2年、英国のエジンバラ公が来日するに際し、軍楽隊長のフェントンに「日本の国歌を教えてほしい」と問われたが、当時の日本に国歌などない。切羽詰まった薩摩藩士の通訳が、故郷の祝賀の席でよく歌われていた薩摩琵琶歌「蓬莱山」の一節「君が代は千代に八千代に――」を歌い、それをフェントンが吹奏楽用に作曲した。つまり、「君が代」は窮余の策から生まれ、吹奏楽用に作られたフェントンの曲は歌いにくく、後に作り直されたのだ。
なんとも奇妙な誕生の仕方をした「君が代」だが、その位置づけも長らく曖昧で、正式に国歌と定められたのはほんの20年前。これを機に、「この国のことを歌」う「国歌」のあり方を国民自身が改めて考えてみたらどうだろう。なお初代君が代はYouTubeで聴ける。 <狸> (白水社 2400円+税)