「解死人次郎左」新井政美著
主人公は、村はずれに住む浮浪の者・植原次郎左衛門とその息子・三十郎。幼い頃から父と一緒に戦乱の町を逃げまどって生きてきた三十郎は、成長するにつれ、村人たちに腰の低い対応をし続ける父親の姿に疑問を感じるようになっていた。
しかし、ある日、村と村との争いがきっかけで人質として相手の村に拘束される父親を見て、実は父が元武田家の家臣であり、解死人と呼ばれるもめごとが起きた時の人質要員であることを知る。
亡くなった母親が庄屋の娘だったことから、母の故郷の村人たちの恩義を受けて差別されながらも生かされてきたのだ。
そして心優しく学問を愛する父が報われる世の中になってほしいという願いもむなしく、ある日野伏せりの一団が村を襲ってきた……。
「織田信忠―父は信長」の著者による最新作。武士と解死人と庄屋の縁者という3つの身分に翻弄されながら、生き抜く主人公の姿を通して、戦国の世に生きる人々の葛藤や混乱を描いている。
(河出書房新社 1600円+税)