「夏空白花」須賀しのぶ著
全国高等学校野球選手権(いわゆる夏の甲子園だ)は、大正4(1915)年に第1回大会が行われたので、それから毎年行われていたとするなら、今年で104回目を迎えるはずなのに、今年はちょうど100回目。計算が合わないのは、その間、昭和17年から昭和20年まで4年間の空白があるからだ。戦争による中断である。昭和21年に復活するのだが、そのときの舞台は西宮球場。阪神甲子園球場に舞台が戻るのは昭和22年大会からである。
では、なぜ戦後の再開が阪神甲子園球場ではなく、西宮球場だったのか。その間にどういうドラマがあったのか、その舞台裏を描いたのが本書だ。
朝日新聞大阪本社の神住匡を主人公に、戦後の再開に向けて奮闘する人々の努力と苦心の日々を描く長編だが、そのいちばん大きな壁がGHQとは意外だった。野球はアメリカ生まれのスポーツであり、むしろ野球復興を後押しするものと思っていたので、その意外な展開がキモ。須賀しのぶは、オリジナル文庫大賞を受賞した「夏の祈りは」や、「ゲームセットにはまだ早い」(これも傑作だった)など数々の野球小説を書いている作家だけに、いわば熟知している世界である。だから安心して読むことができるのもいい。
当時の風俗も興味深く(たとえば、見た目は卵でも中身は寒天だという乾燥卵!)いろいろな読み方のできる楽しい小説でもある。
(ポプラ社 1700円+税)