著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

協定(上・下)ミシェル・リッチモンド著羽田 詩津子訳

公開日: 更新日:

 不思議な小説だ。ジェイクとアリスは、結婚早々、「協定」に署名する。その「協定」とは結婚を永続的なものにしようとする同志の集まり、というのだ。

 悪いことではない。だから深く考えることもなく2人はサインする。渡されたマニュアルも読んでない。その43ページには「配偶者が電話してきたら、必ず出ること」と書いてあったり、「毎月配偶者に贈り物をすること」とあり、それだけなら特に問題もないようなのだが、続けて「罰則」という項があり、「同月内に贈り物をしそこなうことは3級犯罪として扱われる」とあるから、おやおやっとなる。

 ここでいう「犯罪」とはけっして比喩的なものではなく、本当に罰せられるのである。

 四半期ごとに旅行に行かない者は2級犯罪だ。それに違反したアリスは、厳密な観察対象にするために手首にブレスレットをはめられる。GPSが付いているのか、音声モニターが内蔵されているのか、その詳細はわからないが、次には首輪をはめられるから、常識を逸脱していることは否めない。

 すべては結婚を強化するためだというのだが、本物とそっくりの裁判にかけられ、刑務所に入れられ、拘束具を着けられるにいたっては、いくらなんでもやりすぎだろう。なんと退会も出来ないのだ。

 本書は、ある夫婦が見舞われたその悪夢のような体験を描いていくが、読み進むうちに結婚とはいったい何なのだろうと考えてしまう。それがこの小説の狙いだろう。

(早川書房 各1000円+税)


【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…