「歴史は実験できるのか」ジャレド・ダイアモンドほか編著 小坂恵理訳

公開日: 更新日:

 タイトルを見たとき、首をかしげた。すでにある歴史をどうやって実験するのだろうか、と。ここでいう「実験」とは、自然実験あるいは比較研究法と呼ばれる手法で、現実に発生していたあるシステム同士が「多くの点で似ているが、一部の要因に関しては違いが顕著で、その違いが及ぼす影響」を比較・分析するもの。

 本書で取り上げているのは、①ポリネシアの島々における歴史展開の多様性②アメリカ西部の爆発的成長の解明③アメリカ、イギリス、メキシコにおける銀行制度の比較④同じ島を東西で二分するハイチとドミニカ共和国の貧富の差の要因⑤イースター島でなぜ大規模な森林破壊が進んだのか⑥奴隷貿易がアフリカに及ぼした影響⑦イギリスがインド統治に及ぼした影響⑧フランス革命に伴う制度上の変化、の8つ。

 例えば、④のハイチとドミニカ。同じイスパニョーラ島にあっても、東のドミニカの1人当たりの平均収入は西のハイチの6倍、森林の保存率はドミニカ28%に対しハイチ1%と大きな差がある。なぜか。まずは東西の環境の違い。次に植民地としての歴史の違い。ハイチは旧フランス領でアフリカからの奴隷が多く、旧スペイン領のドミニカは奴隷人口が少ない。さらには公用語の違い(ハイチクレオール語とスペイン語)、独裁者の経済政策の違い等々の要因が挙げられていく。

 また⑤の、イースター島は島民のむちゃな森林伐採により大規模な環境破壊を引き起こし、無人の島になったというのが従来の説だったが、著者らは、この森林破壊には中央アジアのステップから飛来するちりや島の面積等々、いくつかの変数が関係しており、イースター島はそれらが運悪く重なったのだと解明する。

 文字通り目からうろこがボロボロと落ちていく快著。

<狸>

(慶應義塾大学出版会 2800円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動