生きものの知られざる世界が分かる本特集
「無脊椎水族館」宮田珠己著
野へ山へ海へと出かける夏休みには、多種多様な生き物たちと出合う機会も多くなる。そんなとき事前に知識を仕込んでおけば楽しさが倍増するに違いない。そこで今回は最新のおもしろ生き物本5冊を紹介。
暑すぎる今年の夏。屋外には行く気がしないという人にお勧めの行き先は、なんといっても水族館だ。
なかでも、クラゲなどの無脊椎動物の水槽前は、イルカやラッコなどの水族館の花形コーナーと違って混むこともないので、明るく社交的な自分でいることに疲れた大人には絶好の居場所らしい。
本書では、そんないい具合に疲れた大人だからこそ発見できる19の水族館の見どころを、150種類以上の海の生き物のオールカラー写真つきで紹介している。たとえば、鹿児島県の「いおワールドかごしま水族館」なら、宝石のようなカラフルなウミウシから、ぼろ雑巾が踊ってるようなウミウシまで、ウミウシ三昧が可能。
この際生態などの難しいことは考えず、不可思議な彼らの姿を目で追うだけで、肩の力が抜けそうだ。
(本の雑誌社 1800円+税)
「昆虫たちの不思議な性の世界」大場裕一編
地球上で最も繁栄しているといわれる昆虫類。本書は、そんな昆虫の性の世界を、雌雄の決定から、パートナー探し、求愛、交尾(あるいは交尾なしの単為生殖)、まれに子育てに至るものなど、多種類の昆虫を取り上げて解説したもの。
たとえば、交尾の際2匹がつながって飛ぶトンボは、受精に至るまで過酷な競争を繰り広げる。カワトンボ類のメスは複数のオスと交尾するため袋状器官の中で複数のオスの精子が混じるのだが、これを避けるためオスは前に交尾したオスの精子を袋状器官の中からかき出し、その後に自身の精子を注入するらしい。
さらに他のオスにとられないように長時間交尾し続ける種類のトンボもおり、最長では3日交尾し続けた末にメスに食べられる姿も観察されている。各ページのQRコードにアクセスすると、動画や音声が再生されるというマニア必見のおまけつき。
(一色出版 3800円+税)
「東京いきもの散歩」川上洋一著
自由研究のネタを探す子どもに助言がしたいなら、この本を手に取るべし。
東京に生息する生き物の歴史や行動エリアを紹介しているので、身近な都会に暮らす生き物を見つけることができる。
たとえば1日の利用客が90万人もいる高田馬場駅。大通りは車の往来も多いというのに、裏道にはタヌキの通る道がある。大名屋敷の跡地である「豊島台」には江戸時代からの自然が残っていて、そこが絶好の通り道になっているからだ。
なかでも戦後放置されていたおとめ山を囲うようにしてできた「新宿区立おとめ山公園」には、クヌギやコナラの雑木林が残されていたこともあって、チョウやカナブンが生息し、ヒキガエルが産卵にやってくる。
江戸の大名屋敷が残した、生き物が元気に生息できる自然の豊かさに気づかされる。
(早川書房 1400円+税)
「蜂と蟻に刺されてみた」ジャスティン・O・シュミット著、今西康子訳
蜂や蟻などの毒を持つ毒針昆虫に、実際に刺されたらどのくらい痛いのか。著者は、自らを実験台として毒針昆虫各種に刺されまくり、痛みを数値化した「シュミット指数」で2015年にイグ・ノーベル賞を受賞した昆虫学者だ。本書では、刺された記憶をひもときながら、毒針という武器を進化させてきた経緯や、痛みの正体について考察。
巻末付録の「痛さ一覧」によれば、ヒアリの仲間のレッド・ファイアーアントに刺されたときの痛みレベルは1で、「真っ暗な部屋で照明をつけようとしてパイル地のカーペットの上を歩いていたら、カーペットのびょうが足に刺さった感じ」と表現。一方タランチュラホークはレベル4。「泡風呂に入浴中、通電しているヘアドライヤーを浴槽に投げ込まれて感電したみたい」というから恐ろしい。
(白揚社 2500円+税)
「鳥類学者の目のツケドコロ」松原始著
動物行動学に詳しい著者が、都市部で生活するさまざまな鳥たちの行動のアレコレを紹介。専門のカラスについての考察はもちろん、スズメやツバメ、サギやハヤブサに至るまで、都会を生活圏にしたいろんな鳥たちの行動の背景などを解き明かす。
たとえば、水辺の鳥というイメージのあるセキレイも、都会では駐車場のような少し開けた場所で走り回っている姿が発見できる。これは、セキレイが巣を作るのに樹木を必要とせず、放置された廃車や民家の隙間が営巣場所となるため。脇には排水路もあり、舗装の切れ目に生えた草や植え込みには虫もいて、餌も取りやすい。
都市にすむセキレイにとって、道路とは干上がった河床のようなものではないかという著者の見解に、目からうろこが落ちる。
(ベレ出版 1700円+税)