ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男

公開日: 更新日:

 初めて握ったラケットは木製だった、というのは70年代の話である。ラケットには「ケン・ローズウォール」のサイン、といっても多くの若者は知らないだろう。当時は自分でガット張りからやらされたし、バックハンドはスライス気味に打つのが常識。いまじゃ驚かれるが、観戦では相手のミスで得点しても、先方に失礼だ、という理由で拍手を控えたのだ。

 これがジミー・コナーズの登場によってガラリと変わる。「テニス後進国」のアメリカからいきなりジミー・コナーズという若造(といったって向こうが年上だけど)が出てきてローズウォールをこてんぱんに。しかもそのプレースタイルが打つたびに大声を出し、バックは両手打ちの強打というのだから、ローズウォール流の優雅さとは正反対。そして世界は常識破りのパワーテニスの時代へ突入し、テニスのイメージも概念も革命的に変化したのだ。

 そんな往時のテニス伝説を思い出させるのが先週末から公開中の「ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男」。ボルグは見るからにスウェーデン人らしい、冷静沈着が服を着たような通称「氷の男」。マッケンローはコナーズをしのぐ態度の悪い「悪童」。映画は2人が80年のウィンブルドンを舞台にした4時間の大激戦をクライマックスに、2人の人柄や舞台裏をかなりベタに描く。でもまあ、あの沈着なボルグが元は短気でケンカっ早かったなんていう意外な話がてらいなく含まれるのがベタな話のいいところでもある。

 というわけで今回の本はエリザベス・ウィルソン著「ラブ・ゲーム テニスの歴史」(白水社 3800円)。まさに優雅で有閑なゲームだった時代から現代までをたどる。映画にも出てくるが、ボルグたちは世界的なテニス人気に巨額のスポンサーが群がるようになった時代の象徴的な存在だったのだ。

<生井英考>


【連載】シネマの本棚

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動