「『ふつうのおんなの子』のちから」中村桂子著

公開日: 更新日:

 いつの頃からか、日本を軍隊を持つ「ふつうの国」にしようという声が強まってきた。どうやら、憲法によって戦争放棄、戦力不保持、交戦権否認を規定している日本は「ふつう」じゃないと考える人がいて、現在政権のトップにいる人たちも同じ考えのようだ。しかし、生命誌という、生命の起源以来約40億年の歴史を読み解く学問を研究している著者がいう「ふつう」は、彼らの「ふつう」とは大きくちがう。

 本書でいう「ふつう」とは、やたらに権力を求めたり、過剰な競争をしたり、差別意識が強かったりせずに、一人一人があるがままを楽しむ、そういう生き方を指す。もうひとつ大事なのは「おんなの子」の考え方。この「おんなの子」の考えとは年齢や性別とは関係なく(年寄りや男性も含まれる)、生きものとしての自分を見つめることによって見えてくるもの。それがどんなものかは、「あしながおじさん」のジュディ、「長くつ下のピッピ」のピッピ、「若草物語」のジョー、「小公女」のセーラ、「赤毛のアン」のアン……といった著者が幼い頃から読んできた物語の登場人物が示してくれる。そこからは、これまでの「男らしさ」を物差しとした社会とはちがう、おんなの子の特性を生かした日常の暮らしに根差すような社会のあり方が立ち現れてくる。

 やさしい語り口だが、その底には著者が幼い頃に体験した戦争と飢えの記憶がしっかりと根を張り、いつのまにか「ふつう」の生き方から離れてしまった私たちの暮らしの危うさに対する強い危機感がある。同時に、科学者と生活者の目を通して、物語を読む楽しさ、自前でものを考えることの喜びも教えてくれる。読んだ後には不思議と元気が湧いてくる、とてもすてきな自伝的エッセー。 <狸>

(集英社クリエイティブ 1500円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動