「不道徳お母さん講座」堀越英美著
2018年度から、小学校で「道徳」が正式な教科となり、家族愛、勤労と公共、正直誠意、礼儀など22項目を教えることになった。しかし、本書の著者がいうように、官僚のセクハラを訴えた女性記者の行為を「ある意味で犯罪だ」といってのけた下村元文科相がこの教科化を推進した中心人物なのだから、何をか言わんや、だ。また、どうして道徳で「母親の無償の愛に感動して涙する子供の物語」を教えなければならないのか。著者はいう。どのように家族を愛しているかを国にジャッジされ、正しいあり方を指示されるなんてまっぴらだ、お母さんだからってなめるなよ、と。
そこで登場してくるのが、ごんぎつね、2分の1成人式、巨大組体操という、「感動」ご三家。1980年以降、すべての小学校国語教科書で採用されはじめた新美南吉の「ごんぎつね」、ここ十数年普及し始めた小学校行事の「2分の1成人式」と「巨大組体操」。これらはいずれも本来は自由な発露であるはずの「感動」を、ある型にはめ込んで一様なものにしてしまう。
どうしてこんなことが起きているのか。著者は文明開化期までさかのぼり、社会は読書を通じて何を刷り込もうとしてきたのかを検証し、「無償の愛で自己犠牲する母」という母性幻想が誕生した経緯、さらには「感動ありき」の学校行事のルーツを探っていく。
ここから見えてくるのは、戦前の修身教育から、戦後、曲がりなりにも「民主的」を奉じてきた戦後民主主義教育の地盤の脆弱さと、旧に復そうとする保守層の大きな流れである。安保法制、改憲、そしてこの道徳教育と続く、現政権並びにそれを支えている者たちの暴走を止めるためにも、もう一度彼らに声を届けよう。お母さんだからってなめるなよ――。(河出書房新社1550円+税)
<狸>