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「武器になる知的教養西洋美術鑑賞」秋元雄史著

 美しい絵をただ「きれいだなぁ」と思いながら鑑賞する。そんな楽しみ方も悪くはないが、違った角度から名画を鑑賞することで、ビジネスにも役立つ複合的な能力を高めることも可能だ。近年では社員研修に美術鑑賞を加える大手企業も増えている。今回は、新たな名画鑑賞法が分かる5冊を紹介しよう。



 世界で最も有名な絵画といえば、レオナルド・ダビンチによる「モナリザ」。どこから見ても視線が鑑賞者をまっすぐに見据えるように描かれているのも、背景を実際の景色ではなくイメージとして描くのも、すべてはこの作品から始まった手法だという。なぜこのように画期的な表現を行ったのか。当時は、十字軍遠征の失敗やペストの流行により、それまで絶対的だった教会の権威が揺らぎ始めた時代。科学的視点で人間と世界の真理を読み解こうとしていたダビンチが、従来の宗教画との決別を物語る新しい作品を生み出したのもうなずける。

 絵画の背景にある物語や西洋美術史、そして世界の歴史という“文脈”の中で鑑賞を行うことは格好の知的トレーニングになり、ひいてはビジネスの勘を磨くことにもつながると本書は説いている。

(大和書房 1600円+税)

「名画の読解力」田中久美子監修

 西洋美術において伝説や神話における人や神を特定するのに役立つ、アトリビュートという小道具がある。

 オリンポスの最高神ゼウスのアトリビュートは鷲。天地を支配していた父クロノスに戦いを挑んだ際、鷲がゼウスに勝利を予告したことからゼウスの化身として描かれるようになった。戦いの際に用いた、両端が矢尻状に枝分かれした雷電という武器もそのひとつだ。絵画においてゼウスは動物や雲、黄金の雨などその姿をさまざまに変えるが、近くに鷲や雷電が描かれていれば、それはゼウスを表していると特定できるわけだ。

 聖女とともに白い百合が描かれていれば、それは聖母マリアの受胎告知。イエス・キリストの絵画に、ドイツ語で“剣百合”とも呼ばれるアイリスが描かれていれば、キリストの受難を表す場面となる。

(エムディエヌコーポレーション 1600円+税)

「人騒がせな名画たち」木村泰司著

「種をまく人」や「落穂拾い」など、農民の労働や生活を主題として描いたジャン・フランソワ・ミレー。日本では本国フランス以上に高い人気を誇るが、ミレーが生きた19世紀といえば王侯貴族が力を持っていた時代。名もない農民の姿を絵画の主題にすることは非常識であり、まして全身像は高貴な人々のみが描かれるべきものだと、保守的な鑑賞者からは批判の的だったという。 

 ミレーは農家の生まれ。大地に根付いて生きる崇高な農民たちを愛し続けた……と思いきや、実は農民を主題に描くようになったのは話題づくり。農村画家として注目を集めるための戦略で、成功したあとは地元農民とは一切付き合わなかった。

 可憐なバレリーナが描かれたエドガー・ドガの「エトワール」は愛人の品定めの場面だった、カラバッジョによる三神の裸体は鏡に映した自画像だったなど、名画にまつわる裏話を紹介する目からウロコ本。

(マガジンハウス 1500円+税)

「美貌のひと」中野京子著

 40枚の絵画に描かれた美貌の人24人を厳選。美しさの奥に隠された人生の光と影を追う美貌論考。

 ピエール・オーギュスト・ルノワールによる「ブージヴァルのダンス」では、白いドレスの裾を翻して踊る、赤い帽子がよく似合う美女が描かれている。彼女の名前はシュザンヌ・ヴァラドン。18歳で産んだ婚外子を育てるため、当時は街娼以下と見なされていたモデルとして生計を立てていた。

 彼女はルノワールほか大勢の画家のモデルを務めるうち、自らも絵筆を執って画家となるが、女性画家の自活は容易ではなかった時代だ。やがて31歳で実業家と結婚するも、十数年後、自分の息子の友人と激しい恋に落ちる。

 一方、奔放な母を持った息子は、10代でアル中となり、治療の一環として絵画を制作。彼こそが、のちに「白の画家」として人気を博すモーリス・ユトリロとなるのだ。

(PHP研究所 920円+税)

「なぜ、世界のエリートはどんなに忙しくても美術館に行くのか?」岡崎大輔著

「MoMA」(ニューヨーク近代美術館)の「ビジュアル・シンキング・プログラム」メソッドを源流に、京都造形芸術大学で考案された美術鑑賞法を紹介する本書。

 大切なのは、「見る・考える・話す・聴く」というサイクルを繰り返しながら、グループで絵画を鑑賞すること。意識を持って隅々まで絵画を見たら、直観を大切にしながら作品について考える。そして、なぜそのような直観に至ったのかを、絵画の中から見つけ出すことが重要だ。

 さらに、自分の心に湧き上がる感情や疑問を“的確な”言葉に置き換えて周りの人に伝える。このような鑑賞法を繰り返すことで観察力が高まり、自分のものの見方を客観的に捉えやすくなり、意識を言語化しやすくなり、その精度も高まるという。

 ビジネスの成功者たちが美術鑑賞に熱心なのも、人生や仕事で役立つ能力を伸ばすためなのだ。

(SBクリエイティブ 1400円+税)


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